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Studio Updates —

Studio updates.

編集日誌3

で、私が犯していた初歩的な間違いとはいったいなんだったのでしょうか?答えから先に言うと「自分の頭の中にあるシーンを編集で再現する」という間違いでした。

脚本を書いたのは私ですのでシーンのビジョンは私の頭の中にあります。このビジョンに基づいて私は各テイクの中で自分が「これだ!」と思う瞬間をOKテイクに選んでいきました。ロングサイズの「これだ!」と思うテイク、ミディアムサイズの「これだ!」と思うテイク、俳優一人一人をバストショットで撮影した「これだ!」と思うテイク。いわゆる、いいとこ取りです。

次にそのOKテイクをタイムライン上で編集していきました。

そうして出来上がったものが全くダメだったのです。

何度見直してもダメだったので思い切ってタイムラインの編集結果を全選択してデリートしました。一からやり直しです。

もう一度43テイク全てのフッテージを見直しました。サウンドを消して、俳優の口の動きに合わせてセリフを独り言でつぶやきながら各フッテージを見ていきます。座るアクションがある場合には自分も椅子の上で少し腰を上げ座りなおしてみたり、タバコを吸うアクションがある場合には自分も一緒に吸ってみます。相手のセリフを聞いている俳優の呼吸のタイミングに合わせて自分も呼吸をしてみます。各俳優のセリフを独り言でつぶやき、俳優の演技をなぞりながらフッテージを見直します。それを繰り返しているうちに、シーンの持つ息遣いのようなものが少しづつ見えてきました。

しばらくして俳優の宮崎敏行さんの起こした、ちょっとしたアクションに気がつきました。注意深く見なければ見落としてしまうようなアクションです。

「・・・なんだこれ?」

そのちょっとしたアクションは台本のト書きには書かれていなかったものでした。正直言って撮影現場では私、このアクションに気がつていませんでした。

「なんだこれ?なんで宮崎さんはこのアクションをしたんだ?」

宮崎さんのすべてのテイクを見直します。やはりどのテイクも同じ瞬間に同じアクションをしています。そのちょっとしたアクションにシーンの中で気づいている人がいるとしたらそれは牧田さんでしたので、次は牧田さんのテイクをすべて見直しました。もちろん牧田さんは全てのテイクにおいて宮崎さんのそのアクションに反応していました。

二人のフッテージを何度も見直すうちに、このシーンにおける宮崎さんと牧田さんの感情の流れが少しづつ見えてきました。次は同じ時間軸で酒向さん演じる「伊藤」の感情の流れを探します。同じように高川さん演じる「青木」の感情の流れも。宮崎さんの笑顔が私を勇気付けてくれます。

そうして出来上がったシーンはカットとカットが実に嬉しそうに寄り添っていました。最終的に編集者の自由意志などなかったのではないかと思うほどカットとカットはレゴブロックのように仲良くくっつきあって1つのシーンを形成しています。

俳優がシーンの中で演じる瞬間は映画制作上で唯一のライブです。文字でしかない脚本が生き始める瞬間であり、実際彼らはそのシーンを生きるのです。私が今回犯した初歩的な間違いとは結局、OKテイクという私のビジョンで彼らの生きた記録をズタズタにするというものでした。今回、かろうじて宮崎さんの演技が私にそのことを気づかせてくれました。いやはや冷や汗ものです。

「お前が頭で考えているものより、作品ははるかに大きいことを忘れるな!」

ということを教わりました。

次回は映画『アイム・オール・ライト』の編集作業で初めて女性の登場人物が出てきます。

皆様どうかチャンネルはそのままで。

 

・・・ところで皆さんのオールタイムベスト映画は何ですか?3本上げろと言ったら何にします?私はオールタイムベスト映画を考えるとあまりにも大量の作品が頭に浮かびすぎて思考停止状態になってしまうので、どんな時でも即座に答えられるようにあらかじめ決めています。

その3本は、

1『インディアン・ランナー』ショーン・ペン監督

2『乱れ雲』成瀬巳喜男監督

3『リバティ・バランスを撃った男』ジョン・フォード監督

の3本です。これ、ここ20年ぐらい変わっていません。

先日近々MVを撮影するアーティストさんに同じような質問をしたら、その方のオールタイムベストは、

『スコット・ピルグリム地獄の元カレ軍団』エドガー・ライト監督

『みみをすませば』近藤喜文監督

の2本でした。

「みみをすませば」は未見でしたのですぐに借りてみました。素晴らしかったですね~。

映画の中ほど、バイオリン職人を目指す聖司君が別れ際、ヒロインの雫を呼び止めるシーンがあります。

「雫!」

そこで彼女は振り返るのですが、その振り返り方があまりに素晴らしくて。あまりに素晴らしい振り返り方なので、私自分でちょっと何回か真似してみました。

「雫!」

「(振り返って)え?」

「雫!」

「(振り返って)え?」

まだ観ていない方は是非!

『スコット・ピルグリム 地獄の元カレ軍団』。邦題は酷いですが、エドガー・ライト監督、キレキレの1本です。カットからカット、シーンからシーンへの転換に関してこの監督が持っているセンスはちょっとパラノイアックに狂っています。私は元カレベーシストとの対決が一番好きです。まだ観ていない方は是非!

そして、あなたのオルータイムベスト映画も是非教えてください。

Yuki Hoshino